ビーグル獣医を助けてくれた神秘的な猫 「みぞれ」の話

 

 

獣医が出会った「ホォ~な動物」第二話(第一話はこちら)は、
わたくし、ビーグル獣医がこれからも獣医を続けていく上で忘れてはいけない猫のお話です^^

その子の名前は「みぞれ」。

本当に彼女は不思議な猫でした。

 

 新米ビーグル獣医


私にも、もちろん獣医になりたての時期がありました。

もういや!夜間救急の罠」でお話させて頂いた動物病院で、
私は毎日死に物狂いで働いていました。

でもビーグル獣医も人間です(苦笑)
毎日心が折れそうで、諦めてしまいそうで、辛くて辛くて・・・
ほとんど無意識のまま働き、気づけば一日が終わる。
そんな日が続きました。

睡眠不足で意識を失い、自動車事故を起こした事もありましたし
夢遊病を引き起こして朝気が付けば外に居た事もありました。

そんな日々を支えてくれた存在が・・・

 

 それが・・・


「みぞれ」と「あずき」と「シーバ」です。
三匹のメス猫でした。

その動物病院の、一番上の階のベランダはいわゆる猫屋敷状態になっていまして、
保護した猫が自由に遊びまわり、生活をするスペースとなっていました。
確か20頭前後は居たと思います。(当然全頭避妊去勢済みですよ^^)

彼らは動物病院の「供血猫」として、緊急時に血を提供する代わりに
生活を保障されて暮らしていました。
とは言っても、食べていたのはサンプルの処方食ばかりでしたけどね^^;

辛くて落ち込んだ日の最後には、必ずそこへ行きました。
夜中の1時だったか2時だったか・・・・

大の字に寝転んだビーグル獣医の元へやってくるいつもの猫たち。
中でも「みぞれ」「あずき」「シーバ」は必ず来てくれました。

「あずき」は私のお腹に乗っかって、ゆっくり休ませてくれなかった子でした(笑)
「シーバ」はいつも私の顔にジョリジョリと自分の体を擦り付けて、
やっぱり休ませてくれませんでした(笑)

 

 みぞれ


「みぞれ」はちょっと変わった猫でした。

私がやってくる前に、私の寝転がるだろう場所にすでに居るのです。

他の人が行っても、そこに「みぞれ」は居ないそうです。
でも、私が行くと、必ずそこに居るのです。

そして、私が寝転がっても特に何もしません。
「あずき」や「シーバ」がじゃれるその横で、ただただ私の隣に居てくれる。
私が去ると、姿が見えなくなるまでジッと見ている。
そんな猫が「みぞれ」でした。

 

 

 獣医を辞めたい


私の人生の中で、一番獣医を辞めてやる!と思った瞬間でした。

本気の本気で悩んでいて、 私はいつもの猫部屋で大の字になっていました。
あまりに辛くて、本気で男泣きをしました。

・・・そこで、驚くべき事が起こりました。
それまで長い間、ただただ私が行くと隣に座っていただけだった
「みぞれ」が、私の涙まみれの顔を舐め、顔にじゃれてきたのです。

「みぞれ」なりの精一杯の励ましだったのかも知れません。
いつの間にか私は再び「頑張ろう・・」と思っていました。
そんな素敵な猫、「みぞれ」でしたが・・・

 

 突然の別れ


私は一念発起し、気持ち新たに獣医師人生を再スタートさせました。

しばらく猫部屋からも遠ざかり、必死で毎日勉強に治療に明け暮れていました。

そんな私のところへ、猫部屋のお世話をしていたパートさんから
耳を疑うような話が持ち込まれます。

「大変です!先生!どこを探してもみぞれが居ません!!」

いやいや、そんな馬鹿な(笑)屋上ですよ?
走って猫部屋に向かった私。
そこに待っていた物は、またしても不思議な風景。

「あずき」と「シーバ」が、いつも「みぞれ」が居たその場所で、
まるで私を待っていたかのようにお座りをしていました。
「みぞれ」がもう居ない事を伝えたかったのかも知れません。

私は病院の周りの茂み、近くの駐車場、林、大きな道路、
橋の下、コンビニの裏、近くの多頭飼いの家・・・・・
必死で「みぞれ」を探しました。
そもそも屋上は高い柵で覆われていますから、外に出るはずが無いのです。
しかし、もしかすると・・と考え探さずにはいられませんでした。

でも、「みぞれ」が見つかる事は二度とありませんでした。

 

 それから


一体みぞれはどうやってそこから消えたのか。
どうしてそこから消えようと思ったのか。
未だに謎は解けません。

今でも、茶白の、少し目つきの悪い、ちょっと太り気味の猫を
見ると「みぞれ」の事を思い出します。

 

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