隠していた本当の顔 動物病院のスタッフ全員が気付かなかった真実

 

 

さて、カテゴリ「こんな患者さんが来ました」では、いつも「え?マジで?」な
飼い主さんをご紹介してきた訳ですが、今回は一味違う内容で^^;

私が最後の最後になって、やっと本当の顔を知る事が出来た、
「感心した飼い主さん」の話となります。

もっと早く気付きたかったです。

 

 いつもそっけない飼い主さん


その飼い主さんは、いつもそっけない事で有名でした。

獣医「では、こちらの薬ですが与える意味としては・・」

飼主「ああ、いい、いい。一週間あげて連れてくれば良いんだよね」

獣医「耳の中も綺麗ですし、心音も問題無いです。それに・・」

飼主「大丈夫なんでしょ?早くワクチン打ってもらえるかな」

飼主「どうせ犬なんて人間より早く死ぬんだから」

飼主「言われたから来ただけだよ。病院なんて犬に必要あるのかね」

一見ムカッとしそうな発言ばかりです(苦笑)

もちろん、動物病院スタッフからも嫌われていて、この人が来るだけで
受付の顔は引きつり、獣医は「うぇぇー、来たよぉぉー」と悲鳴をあげる始末。

さて、こんな嫌われ者の飼い主さんでしたが・・・

 

 通院は実にしっかりしていました


性格が災いして、スタッフのほとんどは
気付かないような状況でしたが・・

実はこの飼い主さん、通院が非常に正確でした。

ワクチンの時期は一日もずれず、フィラリアの薬はしっかり飲ませきり、
ノミダニ予防も完璧に、薬が飲み終わるその日にはしっかりと来院。

でも、何しろ言っている事が「どうせ犬なんて」といった内容でしたので、
誰もこの飼い主さんを認めようとはしていませんでした。

「なんて嫌な飼い主だ!」「あれじゃ犬がかわいそうだ!」
そんな意見が飛び交っていました。

 

 しかしある日


しかし、ある日その飼い主さんの犬に非常事態が起こりました。

病名はおそらく「自己免疫性溶血性貧血」。

自分の赤血球を壊しまくり、酷い貧血を起こし、死に到る事のある病気です。

計測した時、既にHt値(赤血球の割合。普通は40~50くらい)は9%。
もう自分では立てず、粘膜の色は真っ白。
いつ亡くなってもおかしくないような状態でした。

この貧血では、症状が出るやいなや間もなく亡くなってしまう事も多いです。

あまりにも突然の出来事でしたから、この飼い主さんもさすがに・・・と思ったのですが・・・

「どうせもうダメなんだろ?治療して意味あるのかよ」

またしても、イラッとする言い方をする飼い主さん。
スタッフの中には今にも殴りかかりそうな人も居る始末。

「いいって。連れて帰るから。」

そう言い残して、犬を連れ帰る飼い主さん。
途方に暮れる獣医たちを横目に、さっさと会計を済ませて
駐車場に犬を抱えて連れていってしまいました。

ところが・・・

 

 

 見てしまいました


その飼い主さんの置き忘れたバッグが診察室にありましたので、
私は急いで彼の車が止めてある駐車場に向かいました。

そこで見たものは・・・

ハンドルにもたれかかって、犬を膝に乗せて、
嗚咽をしながら泣きじゃくる彼の姿
でした。

本当は悲しくて悔しかったんでしょう。

大切な存在だったのでしょう。

いつもの彼からは想像も出来ない姿に、私は言葉を失いました。

結局バッグを返せないまま、私はいったん病院に引き返しました。
見られたくない姿だったろうと言う思いもありました。

 

 そして数日後


彼からは何の連絡もありません。
彼にバッグを忘れている旨を連絡しようと、カルテにある電話番号に
何度もかけますが、彼は出てくれません。

「バッグの中に、もしかすると他の連絡先があるかも知れない」

そこでやむを得ずバッグを開ける事に。

しかし、そのバッグからは連絡先では無く、財布や携帯などでも無く、
驚くべき物が大量に出てきました。

それは、今まで渡した抗生物質や予防薬、ワクチンに関しての資料やしつけの方法、
色々な検査やその犬種の特性、今までの体重のデータや食べていた食事に・・・

実に膨大な愛犬に関する資料が詰まったファイルでした。

薬や治療に関するデータは、私たちでも参考になりそうなくらいの物。

そして、その子と一緒に暮らす為に必要であろう情報が
これでもか、これでもか・・・と言う程に。

思えば、彼は薬の飲ませ方から、下痢や嘔吐を起こした時の対処、
食事の選別に体重の維持、散歩の量にしつけまで・・・ほぼ全てが完璧だったのです。

普段の彼の言動からは想像のつかない、犬を飼う事に対する
あまりにも真剣な姿勢に、スタッフは全員息を飲みました。

 

 本当の愛情


彼が病名を聞いた時はどう思ったのでしょう。
突然起こった愛犬への悲劇を、どう受け止めていたのでしょう。

彼は本当に失礼な人でした。
でも、誰にも見せる事の無い深い愛情を持っていました。

きっと、彼に飼われたその子は幸せだったんだろうな・・と、
気が付けば、スタッフ全員が思っていたのです。

 

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