ビーグル獣医の動物病院にやってきた中年くらいの女性とヨボヨボの柴犬・・
女性の名前は景山さん。
初診でヨボヨボなのはちょっとだけ珍しいですが、たまにあるお話です。
ただ、少しヨボヨボにも程があると言いますか、ボロボロの犬でした。
「それでは薬を飲み切ったところで検査しましょう。ではまた来週ですね。お大事に」
しかし、受付で景山さんは
「じゃ、また明日来るから!よろしくねって先生にも言っといて!」
ん?ちゃんと来週って言ったよなぁ・・
彼女は一体どうして明日来ると言い残していったのでしょうか?
次の日
予告通り、景山さんは動物病院にやってきました。
しかし、連れていたのは体中に出来物のあるパグ。
昨日連れてきた柴犬ではありません。
「パグも飼ってらっしゃったんですね^^しかしこの皮膚は・・」
体中の出来物・・実はこれ、同じ場所がこすれてできる、
いわゆるマメのような状態だったのです。
まるで狭い所に押し込められていたかのような・・
「ちょっと時間がかかると思います。また一週間後に来てください。お大事に」
それにしても2頭連続でそんな状態の犬・・
少し変な疑いを持ってしまいそうな状況ですが、
景山さんの犬の扱い方は非常に丁寧で、
とてもじゃないですが虐待しているようには見えません。
一体どういうことなのでしょう。
その3日後
景山さんはまたしても違う犬を連れてきました。
今度の犬は腎不全の雑種。
だいぶ進行してしまっていて、どうしてもっと早く治療開始してあげなかったのか・・
看護師「先生・・あの飼い主さん、おかしくないですか?」
病院のスタッフからもそんな意見が出始めていて、そろそろ限界です。
ついに聞いてみました
獣医「あの・・失礼かも知れませんが、ちょっと黙って治療を続けるには
疑問点が多すぎるんです。飼われている環境について伺ってもよろしいですか?」
景山「はは!そうよねぇ、先生。普通そうよねぇ、先生。」
獣医「??笑いごとじゃないですよ。詳しく教えてください。」
景山「この子たち、実は保健所で引き取ってきた犬たちなんですよ。
絶対に誰も引き取らないようなもう長く生きられないような子を、
せめて最期だけは幸せにしてあげるって私決めたんです。
私の人生はそのために使うって決めたんですぅ♪」
獣医「そうだったんですか・・失礼しました。素晴らしい事でしたね。」
景山「それがさぁ、先生。前の病院なんて十数頭もこういう犬連れて行ったのに何も聞かないんだよ?
獣医として有り得ないよねぇ。金の話ばっかりだしさぁ。」
実は景山さんが以前通っていた動物病院で最初に
「この子たちの為なら金は惜しまないから、出来る限りの治療をいつもしてあげたい」
というような発言をしたところ、高額な治療をされまくりカモにされてしまったとのこと。
毎週約10万円もの治療費を請求され限界だったので病院を変えたそうなのです。
景山「でも、本当にそれで楽にしてあげられたり必要な治療なんだったら、
10万でもなんでもずっと払うんだけどね~。なんか怪しかったから転院してみた(笑)」
ははは!と笑いながら「じゃあねー!先生。また数日後来るわぁ。」と
明るく振舞いながら帰っていく景山さん。
「お金持ちなのかねぇ」「なかなか出来ないことだよなぁ、すごいねぇ」
スタッフの間でも噂のボランティアマダムとして、景山さんは有名人となりました。
しかし、このスタッフたちの考えがいかに甘かったか、思い知らされることになるのです。
初めての往診
景山さんから動物病院へ電話が入りました。
景山「ちょっと先生ー!ルナ(柴犬)の調子が悪いんだけどさぁ。自分で全く歩けないんだよ。
私車無いしさぁ。連れていける友達も今日居なくて参ってるんだけど、先生来てぇ♪」
景山さん宅の飼育環境も気になっていましたので、これはチャンスだ!と
ビーグル獣医は久しぶりの往診へと繰り出します。
「もしかすると、ものすごい大豪邸なんじゃ・・」
しかし、ナビで指定した場所に向かえば向かうほどその予想は外れていることに気が付きます。
車もすれ違えないほど細い道をさらに奥へ奥へと・・
車体をこすってしまいそうな狭いヘアピンカーブを抜け、無茶なバック進入をして、
やっとの思いで小さな一軒家に辿り着きました。
表札には景山さん以外にも二つの苗字が書いてありました。
ピンポーン
獣医「ビーグル獣医ですー。往診に来ましたー。」
景山「どうぞ♪悪いねぇ、先生。」
予想をはるかに下回っていた景山さん宅
「私の人生はそのために使うって決めたんですぅ♪」
その言葉に偽りはありませんでした。
景山さんの家にあった家具は
・ソファ
・冷蔵庫
・洗濯機
以上。
大げさじゃないです。何も無いんです。
これと毛布、コップ、歯ブラシ。
ペットシーツやサークル、ドッグフード、ブラシにおもちゃなど、
明らかに人間のものよりも犬の物が多いという状況でした。
それとふすまを取った押し入れに飾られた、これまでに看取ってきたと思われるたくさんの犬たちの位牌。
景山「上の階は他の人に貸しててさあ、一軒家なのに2万円くらいで住めてるの。すごくない?」
景山「人間やろうと思えば結構いけるもんなのよ♪」
景山さんは朝晩休みなく働き続けていて、その日は2週間ぶりの休みだったそうです。
一人暮らしでは余るほどの収入を得ていますが、少しでも余裕があれば
新しい犬を迎えて助け出しているそうなのです。
景山「貯金も何も無いからさぁ、私が倒れたら終わっちゃうんだけどね♪」
景山「あ、でも私が倒れた場合のこの子達の処遇はしっかり考えてあるから大丈夫よ♪」
そう話す景山さんの脇には、
独居老人の飼い主が亡くなって保健所で殺処分を待つだけになった柴犬と・・
ブリーダーが川辺に遺棄した体中マメだらけのパグと・・
腎不全が発覚した途端に捨てられて保健所に来た雑種が・・
調子が悪いながらも穏やかな表情で静かな余生を送っていました。
殺処分減少の裏側
「殺処分を無くせ!」
こういった声がたくさん挙がるようになったのは素晴らしいことです。
実現するためには当然、無責任な飼い主やブリーダーが居なくなることが一番ですが、
居なくなっていない以上、様々な経緯で保健所に入った犬を救わなければなりません。
また、独居老人が亡くなり引き取り手が無くなるケースも最近は増えているようです。
(ただ、生きているうちに考えとくべきことですので、これも無責任な飼い主にあたりますけどね)
新たに里親になろうとする方は、当然元気で飼いやすい子を求めます。
「これから犬を飼おう!」という人で老齢や重い病気の子を求める人はまず居ませんよね^^;
そういった子を静かに助けている景山さんのような方が居ることを、
ぜひ皆さんにも知ってもらいたいと思います。
しかし、こんな方からボッタくる病院って・・
もっと獣医の誇りを持ちましょうよぉ・・(涙)
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