【殺処分問題】動物愛護センターが助けられなかった雑種

 

「ゴンじい、今日でお別れだよ。ごめんな。」

犬の殺処分を行う動物愛護センターの獣医が体験したお話です。

彼ら全員を救いたいのは獣医師であれば当然のこと・・
しかし、犬、特に雑種の犬を救うことは非常に難しいのです。

この犬はどうすれば救われたのでしょうか。

 

ゴンじい 動物愛護センターへ


「うちの庭に知らない犬が居るんだけど・・」

今日も通報を受けた動物愛護センターは即座に犬の捕獲へ向かいます。

危険な犬だった場合を想定し麻酔銃や「ワッパ」と呼ばれる
安全に首をとらえることの出来る道具などを準備し、現場に急ぎました。

 

しかし、現場に居たのはちょこん、とお座りをしたつぶらな瞳の雑種犬。

「待ってました!あそぼ!」とでも言っているような顔で、
冬にも関わらずハッハッハッとパンティングしながら職員たちを待ち受けていたのです。

道具を使うどころか、「おいで」と言うと自分から近寄ってきて
しゃがんだ職員の膝に手をかけ顔を嗅ぎ回る雑種犬。

「きっと飼い主は出てくるだろう。」

さすがにこんな犬だったら飼い主が心配しているに違いない。
事故にあったりしなくて良かったねぇ、などと言いながら職員たちは
動物愛護センターへと帰っていくのでした。

 

捕獲から過ぎゆく1週間


しかし、飼い主は現れませんでした。
気付けばもう1週間。
ホームページや掲示を駆使しても飼い主は現れません。

そこで、センターの職員たちは話し合いのすえ、
この性格の良い雑種犬の新しい飼い主探しを始めることにしました。

法律では「収容から2日の拘留期間と1日の返還日」が終わると処分とされていますが、
3日経ったらすぐに殺処分されるということではありません。

「処分」という言葉のせいで語弊があるのですが、「譲渡処分」も処分です。
つまり、どのようにでもセンターの判断で行動を起こせる・・という意味なんです。

 

成就しないセンターの努力


「うちも今はいっぱいいっぱいで・・さすがに雑種は厳しいです。純血なら・・」

「室内で飼える犬じゃないと、シェルターがなくて各家庭でうちは預かるから・・」

「うちにはもう引き取り手の無い雑種犬が溢れてるんです。」

20kgもある雑種犬を引き取ってくれるボランティアさんはなかなか居ませんでした。
どこのセンターでもボランティアさんでも、雑種犬には苦労しているのが現状なのです。

 

「この子は本当に性格の良い子なんですが・・」

事あるごとに譲渡希望でセンターに来る飼い主さん候補にお勧めするも、

「さすがにこの大きさは(笑)」「室内で飼いたいので・・」と相手にされず、
寂しそうな目で去りゆく飼い主さんを見つめるのが、この雑種犬の日課でした。

 

それから3ヶ月


それからも去勢手術をして付加価値を高めてみたり、
しつけをして「おすわり」「お手」「ふせ」を覚えさせたり・・
センター職員による努力は続いていましたが、すでに3ヶ月が経過。

いつまでも「あの大きい雑種犬」では可哀想だったこともあり、
センター職員からはいつの間にか「ゴンじい」と呼ばれるようになっていました。

しかし、そろそろ限界。

3ヶ月、飼い主のあてが無いゴンじいを飼い続けることは、
世間から見ればただの税金の無駄遣いなのです。

センター職員の努力もむなしく・・ついにゴンじいの殺処分が決まりました。
決行は翌日。

「ゴンじい・・助けてあげられなかったよ・・」

「ハッハッハッ・・」

キョトンとした目でいつも通りこちらを見つめるゴンじい。
次々とお別れのあいさつに訪れる職員。
ゴンじいの部屋の電気は、夜遅くまで消えることはありませんでした。

 

ゴンじいに起こった奇跡


そしていよいよ殺処分が行われる日。
センターは暗い空気に包まれていましたが、そこへ一人の譲渡希望者がやってきました。

「ん?この犬可愛いじゃねえか。俺が飼ってやるよ。」

え?ゴンじい?
あまりの驚きにぽかーんと口を開ける職員たち。
実にあっけなく、ゴンじいは引き取られることになりました。

犬を飼ったこともあり、広い庭を持っているというそのお家で
ゴンじいは外飼いの犬として飼われることになったのです。

あっという間に明るくなるセンター。
手を取り合ってよかったねぇ、よかったねぇ、と職員たちは喜びを分かち合います。

 

しかし、この後思いもよらない展開を迎えるのです・・

 

 

譲渡から3日後


「おい!!話がちげーじゃねえか!!」

ごんじいの譲渡から3日後、突然飼い主さんがセンターへ怒鳴り込んでやってきました。

「この犬とんでもない犬だ!妻と娘が大けがを負って病院送りになったんだぞ!
そんな説明無かったじゃねーか!返すからな!賠償請求されないだけ有り難いと思え!」

 

センターでは3ヶ月間全く見せたことは無かったのですが、
なんとゴンじいは楽しくなりすぎてテンションが上がり過ぎると、
見境なく楽しく人を咬んでしまうというとんでもない癖を持っていたのです。

いつもであれば、

「うちで把握出来ていた情報はすべてお教えしました。飼い始めた後は飼い主さんの責任ですから、
何とかして解決するように努力してください。返還や引き取りには応じられません。」

とでも言ったのかも知れませんが、あまりに予想外の出来事だったこともあり
職員たちはゴンじいの返還を受けてしまいました。

こうして再び、ゴンじいの殺処分が決定してしまったのです。
人を咬んでしまった犬には狂犬病の鑑定が必要なので、
それを終える2週間後が決行日となりました。

 

再び起こった奇跡?


ついに殺処分の決行日がやってきてしまいます。
ゴンじいの殺処分の準備が着々と進められました。

麻酔薬を吸い、ゴンじいの命もあと数分・・

しかし、ここで再び奇跡が起こります。

 

ちょうどそのとき、ある展示業の業者さんが動物取扱業の更新に訪れていたのですが、
少しセンターを見学したいと申し出てきました。
職員が案内する中、奥の部屋を指さして業者さんが質問してきました。

「あの奥で今何かやっているんですか?」

「実は・・これから殺処分するんです。3ヶ月苦心したすえ、やっと飼い主さんが
見つかったのですが咬傷事故を起こし戻ってきてしまったんですよ。」

「その子を見せてもらえませんか?」

あまり気の進まない職員でしたが、しぶしぶゴンじいを見せることに。

「可愛い子じゃないですか。楽し過ぎると咬んでしまうんですか・・
分かりました。うちは愛玩動物飼養管理士三人を雇ってますし、
プロとしてこの子を助けてみましょう。あまりに可哀想ですから。」

まさかの申し出にまたもや職員の口はぽかーんと開きます。

二度目の奇跡により、ゴンじいは命をとりとめました。
職員たちの中には涙を流して喜ぶ者、高いテンションで苦情の電話対応をする者(笑)など
センターには明るい空気が漂うのでした。

ところが・・

 

またもや戻ってきてしまったゴンじい


2週間ほどが経ったある日のことでした。

先日の業者さんが泣きながらゴンじいを連れてセンターへやってきたのです。

「実は・・あの数日後、職員二人が大怪我を負ってしまって裁判になりそうなんです・・。
ええ、愛玩動物飼養管理士のうちの二人です。動物のプロとして雇った二人だったんですけどね・・。
二人ともすでに辞めてしまいました・・」

「もうお店も厳しくなりそうで、私自身今後暮らしていけるかどうか・・
本当に助けようと意気込んでいたのですが、独りよがりだったみたいですね・・
ごめんなさい・・ごめんなさい・・」

怪我をした愛玩動物飼養管理士の二人は、20代の若い女の子だったそうです。
業者さんの認識不足というか何というか・・民間資格を取ったばかりの経験の浅い人間に
期待をかけ過ぎたんでしょうね。

この場合もいつもであれば、

「人間の都合なんて犬には関係がありませんから。頑張ってください。」

と突っぱねるところでしょうが、まともに育てられるような状況では無いであろうことが、
たくさんの飼い主さんを見てきた職員にはすぐに分かりました。

こうしてゴンじいは、再び殺処分にかけられることになってしまったのです。

 

殺処分決行


それから2週間後・・
3度目の奇跡は起こりませんでした。

 

「ゴンじい」

ケージの扉を開けて呼び出すと、トットットッとすり寄ってくるゴンじい。

「ハッハッハッ・・待ってました!あそぼ!」

「いや、もう遊べないんだよ、ゴンじい。こっちに行こう」

しかし、ゴンじいは抵抗しました。
今までリードを引っ張って抵抗したことなんて無かったのに・・
ただならぬ雰囲気をゴンじいは分かっていたのかも知れません。

抵抗するゴンじいを無理に引っ張りながら、職員は処置室にゴンじいを連れていきます。

 

「ゴンじい、今日でお別れだよ。ごめんな。」

 

涙を流しながらゴンじいを抑えつける職員。
臨床経験豊かで静脈注射が得意だったはずなのに、なかなか針をさせない職員。
全てを悟ったのか、パンティングすらやめて静かにじっとしているゴンじい。

こうしてゴンじいの短い人生は幕を閉じました。

これが年間約10万頭殺処分されている犬や猫のうちの、たった1頭のお話です。

 

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