おばあちゃんと犬の絆 獣医が分からなかった謎かけ

 

足腰の立たない犬チャッピーと、足腰が不自由なおばあちゃんが暮らす田舎の小さな一軒家。
そこへ数年間欠かすことなく、一週間に二回の往診をしていた獣医が居ました。

チャッピーは中等度の腎不全を患っていまして、
定期的に点滴をしてあげないと死んでしまうのです。

一週間に二回の往診というのはなかなか大変なのですが、
おばあちゃんの人柄もあったでしょうか。
その獣医は全然苦に思うことも無く、その日もいつも通りの時間が流れるだけ・・のはずでした。

 

 おばあちゃんの謎かけ


点滴は時間がかかります。
この時間に獣医に謎かけをすることを、おばあちゃんはとても楽しみにしていました。

チャッピーの周囲をちょっとだけ変化させて獣医を待ち受けるのです。

「今日はどこが変わったか、分かるかい?」

しかし、その獣医は優れた観察力を持っていて、いつもおばあちゃんは勝つことが出来ません。

「おっ、今日はいつもとベッドの向きが若干違うねえ。これが正解かい?」

「ああ・・またやられたねえ。よく微妙な向きまで覚えてるねぇ」

「あっ、今日はリボンの数が一個多い気がするなぁ?」

「全く先生にはかなわないねえ。」

そんな会話を繰り広げながら、いつもの点滴が終わります。
数年間、一度も獣医が負けることはありませんでした。

 

 

 初めて分からなかった謎かけ


ある日、いつものように点滴に訪れた獣医師でしたが、今日はどうしても答えが分かりません。

「おばあちゃん、今日は何も変えなかったのかい?」

「いいえ、いつもと違いますよ。ふふふ」

獣医師はお手上げ状態でした。
結局最後まで答えは分かりません。

「参ったな。今日は完全に負けました。答えはどこだったんですか?」

「それは今度にでも。近いうちにお教えしますよ。ね?チャッピー。」

答えを教えてもらえなかった獣医は何かがつっかえたまま、
往診を終えて病院へと帰っていきました。
一体何が違っていたのでしょう・・・

 

 回答


次の日の朝、思いがけない形で答えはやってきました。

「今までありがとうございました。チャッピーは昨日の夜、静かに息を引き取りました。」

突然の最後。
往診で出来ることは限られていますので、入院よりもこまめな状態把握は難しい・・
ただ、それを考慮したとしても全く予想出来ませんでした。
おばあちゃんだけがこの事を分かっていたのです。

「苦しむことなく、安らかに眠りにつけました。先生にもとっても感謝してましたよ。」

まるでチャッピーとお話をしたかのようなおばあちゃん。
いや、もしかするといつもの問題もチャッピーと相談しながら出題していたのかも知れませんね。

いつも正解だった獣医が、たった一度だけ分からなかった難問。
また獣医は新たな往診へと向かいます。

 

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